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NEUROTIZATION

神経再生治療

神経再生治療とは

神経再生治療とは、何らかの原因で神経細胞が傷害を受け、正常に機能しなくなった状態から神経細胞の性質や形態を、元の健康な神経細胞に修復・再建する治療方法です。 

緑内障における神経細胞とは、網膜の内層に細胞体があり、細胞体から視神経の束を形成する軸索(電線)を伸ばし、外側膝状体(LGB)でシナプス(神経細胞が次の神経細胞にバトンを渡す接続部・接点)を形成する網膜神経節細胞(RGC)です。このRGCを再生させるのが「緑内障神経再生治療」です。しかし、視覚経路は大変複雑で外側膝状体(LGB)から脳の後頭葉にある視覚野までの神経回路も再生させなければ、本当の意味での緑内障神経再生治療は完結しません。ですから、眼(網膜)~外側膝状体~脳視覚野までの視覚経路全般の神経再生治療をすることによって、視覚(視力と視野)を回復させる治療方法が「緑内障神経再生治療」です。 

神経再生治療の大きな仕組み

神経再生治療

再生医療には大きく2つの方法があります。1つ目は、細胞を使って行う移植再生治療で狭義の再生治療といわれています。2つ目は、当院が施行している細胞を使わず細胞が作り出す分子を利用したり、薬剤を使用して細胞や組織を再生させる広義の再生医療です。
神経細胞(末梢・中枢)は傷害されると治すのが難しい細胞といわれてきました。中でも中枢神経細胞は少し前までは“再生しない細胞” であるといわれ、医学の常識とされてきました。しかし近年、アルツハイマー病の治療薬の開発、脊髄損傷治療やiPS細胞の研究などから“中枢神経細胞は再生する”が新しい医学常識として定着しました。

緑内障において再生させなければならない網膜神経節細胞(RGC)は中枢神経細胞です。神経細胞のとても重要な性質は、生涯増えることなく、死ぬことなく生き続ける「終末分化細胞」であることです。心筋細胞も同様の性質をもっています。一つの細胞が生まれてから生涯働き続ける強靭な細胞と捉えることもできますが、反面、傷害を受けると徐々に機能が低下し最終的には死滅する細胞です。皮膚細胞のように新しい細胞が生まれて新陳代謝により修復・再生のできない衰退する組織ということになります。ですから、健康な細胞は健康なままに、傷害が始まった細胞はなるべく傷害が広がらないようにする、「神経保護治療」という守りの治療が重要だと考えられてきました。そこからさらに守りを攻めに転じて積極的に損傷した神経細胞の軸索や樹状突起を伸ばし修復・再生させ、元の健康で正常な神経細胞にしていくのが「神経再生治療」です。
緑内障神経再生治療の大まかな仕組みとしては、神経保護治療を基盤として、より積極的に神経細胞を機能も形態も修復し再建する「自己再生力」を利用した“自分の病気を治す仕組みは自分の体の中にある”を薬剤によって誘導する治療です。

神経再生治療

神経再生治療の流れ

神経再生治療(保険外・自由診療)の申し込み

  • 電話による受付と初診日の決定

  • 33,000円(初診料と検査費用を含む)納付後に受付完了となります

  • 受診受付前の無料相談もご活用ください

初診日の流れ

  • 検査、問診、疾患説明、病状説明の後に治療計画を策定します

検査

視力、眼圧、視野(2種類)、OCT検査

問診

生後からの既往症(医療機関受診の有無を問わず体調不良等も含む)、遺伝的素因、食習慣および生活習慣に関する問診

疾患説明

緑内障とはどのような疾患かを病理学、組織学、解剖学的にパンフレットと図譜を用いて説明

病状説明

  • 緑内障のタイプの確認(緑内障にはいくつも種類があります)

  • 病状(初期、中期、後期)と進行スピードの確認

  • 現状(再生治療前)における予後(今後の見通し)説明

治療計画策定

  • 検査から病状までのデータを基に「栄養素療法」「生活習慣改善プログラム」「神経保護治療」「神経再生治療」の個別化治療の策定

治療開始後の経過観察

  • 地元かかりつけ医による眼圧管理および緑内障一般検査の継続とデータ保管(標準治療と検査の継続)

  • 再生治療開始後、3か月目の受診

  • その後は6ヶ月~1年(病状により間隔は異なります)の定期検査と治療計画の確認

栄養素療法

「栄養素療法」は「緑内障神経再生治療」の根幹を支える重要な療法です。
緑内障はどんな食事を摂ればよいのでしょうかと聞かれたときに、バランスのとれた食事に心がけましょうといった一般的な回答になることが多いと思います。では、バランスのとれた食事とはいったいどのようなものでしょう?
そもそも健康な人と病気をもっている患者さんとでは、もともとの栄養状態や代謝も異なり基礎疾患も様々です。
ですから必要とする栄養素の種類や量も異なります。さて、緑内障は神経変性疾患の枠組みのなかの一つの病気ということになります。ということは、神経細胞にとくに必要な栄養素や神経細胞が修復・再生するときに必須な栄養素の大切さが見えてきます。それと同時に、神経細胞に傷害を与える毒性物質の多い飲食物の排除も重要です。たとえば、糖尿病が基礎疾患で緑内障を合併しているときは、糖尿病食を基本として、緑内障に必要な栄養素療法を付加することになります。

栄養素療法
栄養素療法

「緑内障栄養素療法」は、様々な基礎疾患の食事療法をベースにして、神経再生にとくに重要な栄養素を摂取し、神経細胞に有害な毒性物質を排除する栄養素療法です。世界的にもよく言われる“You are what you eat.”あなたはあなたの食べたものでできている。を基本に、一つの神経細胞がもつ120年~最大150年の寿命の可能性を支えるのが栄養素療法です。この下支えなくして薬剤治療は成功しません。細胞の元を正して再生させるのです。 

生活習慣改善治療

これには、3つの“三大原則”があります。「快眠・快食・快便」これこそ健康を維持する秘訣として古くから言われてきました。現代医学を取り入れて提案をするのが、緑内障生活習慣改善プログラムです。

快眠

生きているだけで脳や眼には老廃物が蓄積しますが、老廃物はリンパ系が排出します。この老廃物が異常タンパク質で神経毒となります。神経毒を排出するシステムはグリンパティックシステムと呼ばれる、深いノンレム睡眠中に昼間の10~20倍もの神経毒を排出します。神経毒から神経を守るために、良質な睡眠はとても大切です。良質な睡眠を得るには概日リズムを整える必要があります。体のすべての活動は全細胞にある時計遺伝子の働きによる体内時計によって調節されています。体内時計の周期は約25時間(24時間11分という説もあり)で地球の公転とは1時間(もしくは11分)のいずれか生じます。このずれで概日リズム睡眠障害が起こります。このずれが起きないようにしてくれる同調因子で大切なのが、光と食事です。

快眠

目覚めてすぐの光(通常は朝日)で眼の網膜が刺激されると脳が感知して、睡眠ホルモンメラトニンの分泌を停止し、同時に14~16時間後にメラトニンが分泌されるようにタイマーセットをします(朝6時起床であれば夜20時にメラトニン分泌が再開)。
メラトニンの分泌が止まることで中枢時計はリセットされ、体は朝から昼への活動モードに入ります。このときに、元気ホルモンコルチゾールが分泌されて末梢時計は中枢神経に合わせてリセットされます。末梢時計は内臓や筋肉の時計遺伝子で、これをリセットするもう一つのスイッチは“朝食”です。ですから朝食(ファーストミール)は欠食しないことが大切です。良質なタンパク質と適量の食物繊維を摂ることは、次の食事の血糖上昇を抑制(セカンドミール効果)をしてくれます。すなわち、緑内障の改善にとって非常に重要なインスリン抵抗性(インスリンが効きにくい体質)の予防となり、神経を再生するインスリン(点眼・点鼻)が効きやすくなります。中枢時計を調整する光、末梢時計を調節する朝食は、概日リズムを調節して良質な睡眠を与えてくれます。

当院では、これらの仕組みをさらに手助けをするメラトニン製剤のメラトベルを処方しています。メラトベルは小児睡眠障害のために開発された安全性の高い睡眠誘導剤で、常習性になりやすい睡眠薬ではありません。
これまでをまとめてみますと、概日リズム睡眠障害を予防し、神経毒を“黄金の90分”と呼ばれる深いノンレム睡眠(脳の休息タイム)で強力に排出させます。この黄金の90分を毎日手にいれることにより、緑内障進行を予防し、神経再生治療で視野を改善させましょう。

快食

快食とは、“いつもおいしく食べられる”ということです。そのためには、お口の中の健康が大切です。むし歯や歯周病など口腔内の衛生が重要となってきます。
古くから“かぜは万病のもと”といわれ、少し前までは“糖尿病は万病のもと“といわれましたが、このところ、“歯周病は万病のもと”といわれるようになりました。歯周病は歯を支える歯茎の炎症(歯肉炎)や骨(歯槽骨)を溶かして破壊を引き起こす疾患ですが、これが全身に多様な健康上の悪影響(為害作用)を及ぼすことが明らかになってきました。歯周病は以下のような病気や健康問題と関係していて、緑内障にも深く関係しています。そのため、ご自宅での歯周病ケアと定期的な歯科通院をお勧めいたします。
※より具体的で詳細な説明は、著書「緑内障神経再生治療」のP.261~P.273をご覧ください。

糖尿病

歯周病の人は糖尿病になりやすく、さらに糖尿病の管理を困難にします。逆に糖尿病の人は歯周病になりやすく、悪化しやすいとされています。血中に入り込んだ炎症物質(サイトカインのTNF-αやインターロイキン6など)は血糖値を下げるインスリンの働きを低下させるため、炎症がインスリン抵抗性(インスリンが効きにくい体質)を悪化させます。神経再生に必要なインスリン(点眼、点鼻)が効きにくくなってしまいます。そうしてインスリン抵抗性から、肥満、メタボ、動脈硬化へとつながっていきます。そうして、脳卒中や心筋梗塞、透析、足の切断、失明と深刻化していきます。

心血管系

歯茎の腫れや出血部位の血管から歯周病菌が血管内に入り込み、炎症を引き起こすことで動脈硬化のリスクを高めます。

呼吸器系

慢性閉塞性肺疾患(COPD)や肺炎(誤嚥性肺炎を含む)のリスクが高くなります。歯周病菌が呼吸器系に入り込むことで感染を引き起こすためです。

リウマチ性関節炎

リウマチ性関節炎と歯周病は両方とも炎症を特徴としており、相互に影響を与える可能性があり制御性T細胞との関わりが重要視されています。

アルツハイマー病

歯周病菌がアルツハイマー病患者の脳内で多く検出されたことで、発症因子の一つであるアミロイドβが歯周病菌により蓄積が増えるため、発症や症状悪化を招いているようです。また、歯周病菌が産生する酪酸が血流に乗って高濃度で継続的に中枢神経細胞に取り込まれるとダメージを受けます。

がん

歯周病菌や炎症物質(炎症性サイトカイン)が血管内に入り込むと、がん免疫細胞の活動が低下してがん細胞を排除できなくなります。

緑内障

歯周病による慢性炎症反応や細菌感染が全身のさまざまな器官や組織に影響を及ぼしています。炎症が起きると神経毒(異常タンパク質)が蓄積して神経細胞に傷害が起こり死滅します。当然ながら、歯周病菌は血液に乗って全身の至る所に侵入し、炎症性サイトカイン、高濃度の酪酸を局所で産生し、さらに歯周病巣から送達されてくることにより、網膜神経節細胞にも影響が及んでいくということになります。当院では、緑内障ドミノという概念を提唱しています。
歯周病→腸炎・リーキーガット症候群(腸漏れ)→全身の慢性炎症→インスリン抵抗性の悪化→ミトコンドリア機能障害→概日リズムの乱れ→エネルギー代謝ネットワーク異常→神経毒(異常タンパク質蓄積)→中枢神経細胞死(網膜神経節細胞、グリア細胞を含む)→緑内障の発症・進行→失明

歯周病から始まる~緑内障ドミノ~

歯肉の炎症に端を発して、歯周病菌や高濃度の酪酸、さらに炎症物質が全身を巡ることで、さまざまな病気が引き起こされている事実を「緑内障ドミノ」と名付け、緑内障を予防し改善するためには、口腔内の環境を良くすることが、緑内障治療の1丁目1番地であると考えています。
私たちの身体には約1000種類、数にして1000兆個、重さにして約2㎏もの量の細菌が身体に共生しているわけです。その細菌たちの質やバランスによって私たちの健康状態は変化します。細菌が最も多く住んでいるのが、口と腸です。口と腸は1本の管でつながっています。そのため、口の中が不衛生で雑菌が繫殖している状態だと、その雑菌を飲み込んで腸へと届いてしまいます。つまり、口腔内が不健康だと腸も不健康となり、逆に腸内環境(腸内フローラ)を良くしたければ、口腔内環境(口腔内フローラ)を良くすることが大切になるということです。

快便

腸は「第二の脳」といわれ、独自の神経ネットワークを持ち脳から独立して働くことも、脳と密接な影響を及ぼし合って働くこともできます。この双方的な関連性を「脳腸相関」といいます。ストレスを感じるとお腹の調子が悪くなるのがその一例です。そうして抑うつや不安などの情動にも変化を引き起こします。近年このような研究から、「脳‐腸‐腸内細菌軸」という概念も提唱されています。神経変性疾患の代表疾患であるアルツハイマー病とパーキンソン病、そうしてその仲間の一つである緑内障における「脳腸相関」について少し考えてみましょう。

神経変性疾患の原因の主要因は、異常タンパク質です。疾患によりその代表的な異常タンパク質の種類は特定されてきましたが、その数や性質については研究の途中です。アルツハイマー病ではアミロイドβ、パーキンソン病ではαシヌクレイン、緑内障でもそれらの異常タンパク質が神経細胞内に蓄積されていることが分かっています。近年の研究では、神経の炎症がアルツハイマー病の病因の一つであることも示されています。さらに、腸内細菌叢がアルツハイマー病の発症に関与していることが分かってきました。アルツハイマー病では酪酸菌やビフィズス菌の占有率が低いという報告があります。酪酸は脳神経に対する保護治療作用を持つことが知らされています。このことから様々な腸内細菌が産生する酪酸の減少および酪酸菌の減少がアルツハイマー病における脳内の炎症に関連していると考えられています。
 

快便

さて、パーキンソン病はというと、高齢化に伴って増加していて脳の神経細胞の一部(中脳黒質)の働きが低下することで、体をうまくコントロールできなくなる病気です。このところパーキンソン病は腸から始まるといわれています。便通が1日1回未満の便秘の人は発症確率が4倍にも増えるのです。パーキンソン病の人の腸管にある神経叢(神経の集まり)にはほぼ100%、異常タンパク質であるαシヌクレインが存在しています。腸で発生したこの異常タンパク質が迷走神経(腸管の運動を支配する脳神経の一つ)を介して脳へと徐々に移動していき、脳神経細胞をこわし、パーキンソン病を発症させるというのです。パーキンソン病の運動障害が現れる20年も前にすでに便秘が始まっているということです。アルツハイマー病やパーキンソン病と同様の神経変性疾患の一つである緑内障も快便であることは予防や治療において有利であることが示唆されます。

快便

当院では、酪酸菌製剤を処方しています。日本人の腸の中には、酪酸菌がたくさん住みついていることが知らされており、欧米人とは異なる日本人だけの特性があります。ですから腸活は乳酸菌やビフィズス菌から、酪酸菌が主流となってきました。酪酸は大腸のエネルギー源となり、腸内環境を改善し大腸が正常に働くためには酪酸が必要不可欠なのです。酪酸は腸内と弱酸性の環境にすることで、悪性菌の増殖を抑制して腸を整え、大腸の蠕動運動を促進して便秘を解消し、制御性T細胞を誘導して免疫の暴走を防ぎ、リュウマチや膠原病などの自己免疫疾患にも貢献します。
ただしここで、大変重要な「酪酸パラドクス」について解説をします。

酪酸は作用する部位と濃度によって、有益と有害の二面性を持ち合わせた二律背反作用のある物質なのです。作用部位として腸管と口腔では相反作用があります。大腸では様々な作用で腸内環境を良くしますが、口腔内では悪性菌として歯周病の原因となっています。腸のバリア機能を強化する酪酸の濃度には適切な範囲があります。濃度が高くなりすぎると腸粘膜の上皮細胞に細胞死を誘発して、腸のバリア機能を破壊する可能性があります。そのため、腸内細菌叢における酪酸の割合は“多すぎず・少なすぎず”適切なバランスを保つことが大切です。

さて、〈その2:快食〉と〈その3:快便〉は密接な関係をもつことが理解していただけたと思います。口腔においては専門的口腔ケアを、消化管においては正常な腸内細菌叢(1日1回バナナうんちの排便が目安)を維持する努力が、緑内障を予防し改善させ、さらに健康長寿の維持につながると考えられます。

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